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中医学の理論的背景は
中医学の理論的背景は『黄帝内経』や『難経』などの医学古典にみられる、中国古代に作られた陰陽五行説です。
中医学では、この理論に基づいて、人体の構造、生理、病理などを解釈し、臨床における診断や治療の根拠にもしています。
中医学の特色とは
中医学ではどの部分も有機的に結びついた統合体として人体をみます。
そしてその中心にあるのが五臓です。五臓を中心に六腑や五官といった耳目などの感覚器官、五体といった筋肉や骨などの組織器官が縦横無数に走る経絡を通じて有機的に結びついていると考えます。
ですから、中医学では「異病同治」という言葉があるように全く異なった病気でも同じ治療が行われることがあります。
例えば眼瞼下垂と脱肛は全く異なった部位の異なった病症にみえて、中医学的には「中気(脾胃の気)下陥」という同一の病証(後述)によるものとみなして、「昇提中気」という治療法がとられるなどです。
中医学ではまた「天人相応」というように、人体は外界の地理、季節、気候、環境、時間などの影響を絶えず受けていると考えております。
したがって人体の生理や疾病の発生にはこうした外的因子を考慮していきますし、治療においても時間によって取穴部位が異なる「子午流注」といった方法が存在します。
中医学の特色は「弁証論治」という言葉にまとめることができます。弁証とは証を弁別し識別するということですが、弁別すべき人体のとらえ方によって様々な弁証が存在します。
人体の臓腑に視点を当て、そのどこに病変が生じているのかを判断するのが、臓腑弁証です。それに対し、経絡を巡っている気血や津液、精の状態から病気を判断するのが気血津液弁証です。経絡の変動を診て、どの経絡の流れに問題があるのかを認識するのが、経絡弁証です。
中医学にはこのほかにもその必要において様々な弁証が存在しますが、こうした証を弁別する上で用いられる診察方法が「望・聞・問・切」という4つの方法です。
中医学は「四診合参」と呼ばれるようにこの4つの診察方法で集めた情報から、治療の根拠となる証を決定していきます。つまり、弁証とは治療する時の病人の状態から、治療対象となる臓腑や気血の状態を概括したものということができます。
中医学の治療法
中医学の治療内容は大きく内治、外治、養生の3つから成り立っています。
内治とは湯液といった薬や食べ物を口から摂取することによって疾病を予防したり治療したりすることです。いわゆる漢方薬とか薬膳がこのなかに含まれています。
外治は鍼灸や按摩術などの外からの刺激を使い、皮膚から経絡を通じて臓腑や五官を調整していこうとするものです。
養生は気功や太極拳、呼吸法、瞑想など自分自身の動作や想念によって、病気を予防したり治療したりするものです。
治療法は様々ですが、共通するものは、先に述べた「弁証」です。つまり、同じ弁証に基づいて、内治や外治が行われます。「内外同治」というように内治と外治を並行して用いるのが一般的な中医学の姿です。
日本では鍼灸は鍼灸師が受け持ち、湯液は医師か薬剤師に委ねられますが、本来の中医師はどちらも行うことができます。
中医鍼灸学とは 中医鍼灸学も中医学の1つの治療法ですから、他の治療法と同様、弁証論治に基づいて行われますが.鍼灸の特色は経絡を通じて臓腑なり気血を調節することですから、様々な弁証の中で鍼灸と直結している弁証は「臓腑経絡弁証」と「気血津液弁証」ということができます。
中医鍼灸学の特色
中医鍼灸学では必ず証に基づいて治療を行います。
治療内容には本治と標治の2つがあります。
本治はその疾病を起こしている根本に対する治療です。それに対し標治は症状に対する治療や直接、病変が起こっている部位に対する治療を意味します。一般的には「標本同治」というように、その両方に対し、治療を行います。
鍼灸療法の基本は「補虚瀉実」と「通気」によって、体内の陰陽を整えるところにあります。補虚とは様々な臓腑や器官の正気不足に対して取られる方法です。瀉実とは体内の邪気を取り除くことです。「通気」は経絡の気血の流れを改善することです。
中医鍼灸学の内容
四診によって治療すべき証を決定したら、それに基づく鍼灸治療がおこなわれますが、具体的には配穴処方と刺針手技によって、その証に対する治療が行われます。
例えば鼻出血が四診上の情報から「胃熱証」によって起こったと判断した場合、胃熱を取り除く「内庭穴」に鼻竅を通じさせる「迎香穴」を組み合わせる配穴処方がとられますが、さらに邪気である胃の熱を除くために「内庭穴」に瀉法の手技が施されます。
それに対し、鼻出血が「脾不統血」といった脾気不足でおこったとしたら、正気である脾気を補う「陰陵泉穴」に鼻竅を通じさせる「迎香穴」を組み合わせる配穴処方がとられ、「陰陵泉穴」には脾気を補う補法の手技が施されます。
中医鍼灸学の得意分野
従来から鍼灸療法は運動器疾患や疼痛疾患に適応する治療法とされてきましたが、中医鍼灸学は弁証論治を用いることによって、鍼灸療法の適応範囲を飛躍的に拡大させました。
現在では、内科系や婦人科系の各種疾患や一部の難病に対しても有効であることが証明されています。
このことはWHO(国際保健機構)によっても認められております。具体的には「こんな症状に」のページに東京都鍼灸師会の作成した鍼灸療法の適応疾患を掲載しましたので、そちらを参照していただきたいのですが、実際にはそれよりはるかに多くの疾患を中医鍼灸学では扱っております。